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【書評】ホロコースト―ナチスによるユダヤ人大量殺戮の全貌-芝 健介

書評

ホロコースト―ナチスによるユダヤ人大量殺戮の全貌 (中公新書)

著者:芝 健介

出版社:中央公論新社( 2008-04 )

価格:¥ 903

新書 ( 282 ページ )

ISBN-10 : 4121019431

ISBN-13 : 9784121019431




たった2世代前、ドイツを中心とした欧州において行われたヒトラー率いるナチスによるユダヤ人大虐殺、ホロコースト。ホロコーストは誰の手によって、いつから何故起きたのか、全貌を明らかにしたものだ。

日本でも、その事実は大半の人は知っているだろうホロコースト。ただ、なぜ対象がユダヤ人なのかを理解している人はそう多くはないのではないだろうか。
このボリュームで読めるホロコーストの全容が把握できる書籍は他にない。その意味で非常に貴重な本である。

中世ヨーロッパ時代からキリスト教社会の中では、イエス・キリストを救世主として認めなかったユダヤ教徒は迫害されてきた。そしてヒトラーが成人まで過ごすオーストリア=ハンガリー帝国は反ユダヤ主義が蔓延していた。

この反ユダヤ主義を踏襲したヒトラーがナチス党党首になり、ユダヤ人を根絶やし続け敗戦するまでの事細かな過程を記している。

序章 反ユダヤ主義の背景-宗教から「人種」へ
第1章 ヒトラー政権と迫害の開始-「追放」の模索
第2章 ポーランド侵攻-追放から隔離へ
第3章 「ゲットー化」政策-集住・隔離の限界
第4章 ソ連侵攻と行動部隊-大量射殺
第5章 「最終解決」の帰結-絶滅収容所への道
第6章 絶滅収容所-ガスによる計画的大量殺戮
終章 ホロコーストと歴史学


1章では、先に述べたようにユダヤ主義の根底にあるユダヤ教徒への迫害に始まりをもち、信者ではなく人種としてのユダヤ、つまりユダヤ人への迫害への転化の過程をたどる。
その後は、アーリア人優位の優生学から導き出したユダヤ人侮蔑の帰結としての国外追放政策、その後の隔離政策まで、そして最終解決策としてのユダヤ人絶滅までの絶望的な政策を追う。

ナチ・ドイツにとってユダヤ人の存在は「問題」であった。
そして1942年1月、その問題に対する最終的な解決は計画的・組織的な大量殺戮、つまり「ユダヤ人根絶」であると結論づけられた。その結果、ラインハルト作戦による絶滅収容所始めアウシュヴィッツといった絶滅収容所が起動し始めることとなった。

日曜の食事がラード20グラムしか配給されないという事実
労働を通じて抹殺することが最も生産的であるという思考の残忍性
人身の自由という国民の基本的権利が停止するということ


戦争を知らない世代にとって、ホロコーストは遠い昔、アウシュヴィッツで起きた1つの大量虐殺という理解でしかないだろう。アウシュビッツという所で起きたこと、大量虐殺という言葉の重みを本書を通じて感じるべきである。


1500万人のドイツ軍兵士が、助けたユダヤ人はたった100人。たった数年間に殺されたユダヤ人は600万人。
そのときのドイツ国民の無関心さ。

本書を通じて、ナチスが最終的な解決として根絶を目指すまでの意思決定のターニングポイントが、各種研究結果や統計情報を元に紹介されている。

ホロコースト=アウシュヴィッツという人には、お薦めの一冊。




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【書評】裁判官の爆笑お言葉集-長嶺 超輝

書評

裁判官の爆笑お言葉集 (幻冬舎新書)

著者:長嶺 超輝

出版社:幻冬舎( 2007-03 )

価格:¥ 756

新書 ( 219 ページ )

ISBN-10 : 4344980301

ISBN-13 : 9784344980303




裁判官制度が始まったおかげで、裁判に関心を寄せる人が増えているだろう。


裁判を傍聴した経験がないので裁判官のイメージといえば、感情を表に出さず、石部金吉のような想像をしてしまう。しかし、本書を読んでそのイメージが少し崩れた。むしろ親近感まで沸いてきた。法曹界という絶壁の向こうにある世界を、我々一般民の元へ近づけてくれた本である。

著者は裁判傍聴マニアであり、傍聴した中で裁判官の口から出たとは思えないような面白い言葉を集めた爆笑お言葉集である。

爆笑するかどうかは別として、裁かれるものへの裁判官の愛情の印が言葉に出るものだと感じた。罪を償うためには罪の意識、贖罪の芽生えを感じさせる必要があり、裁判官の言葉はずしりと重いだろう。

どれだけ法服を身にまとい、鉄仮面のマスクを被っていようとも中身は人間である。

ひとつだけ引用してみる。
暴走族から抜けようと思った少年に暴行を加え死に至らしめた少年に


「暴走族は、暴力団の少年部だ。犬のうんこですら肥料になるのに、君たちは何の役にも立たない産業廃棄物以下じゃないか」


と言い放つ裁判官。爆笑とはかけ離れているが、親近感が沸く。この言葉は賛否両論ああったが、悪を罰するという意味では力強い言葉じゃないか。


裁判をひとつ身近に感じさせる一冊。









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【書評】アーロン収容所-会田 雄次

書評

アーロン収容所 (中公文庫)

著者:会田 雄次

出版社:中央公論社( 1973-01 )

価格:¥ 600

文庫 ( 244 ページ )

ISBN-10 : 4122000467

ISBN-13 : 9784122000469




戦後イギリス、いやイギリスの歴史を作り上げるイギリス民族の素地がここにある。
「人種差別など時代遅れだ」という人もいるだろうが、それは差別者と被差別者が差別を差別として認識できたときに限られる。




著者の会田雄次氏は、大学卒業後に大東亜戦争ビルマ戦線に送られ、戦火を生き抜いた。しかし大日本帝国は敗戦し、彼らは英国軍の捕虜としての生活が2年間続く。捕虜としての生活の場が、ラグーンにあるアーロン収容所であり、本書のタイトルでもある。

すくなくとも私は、英軍さらには英国というものに対する燃えるような激しい反感と憎悪を抱いて帰ってきたのである。


2年間の捕虜生活の後、この思いを胸に本書を書き上げた。

現代人は、イギリスに対し半ば全面的な賞賛をおくるのだろう。決してイギリスを忌み嫌うためにではなく、たった2世代前の事実を知るためだ。本書を読み終わった後、反イギリスになる必要はない。日本が行ったイギリス軍捕虜の虐殺を忘れてはいけない。

会田氏が受けた捕虜への扱いは、決して暴力的ではなく肉体的苦痛は無かったという。
これが意味するのは、英国紳士であるから英国淑女であるからというものではない。肉体的苦痛を与えるのは相手が人間だからである。英国にとって、アジア人の捕虜は人間ではなく家畜同然なのだ。

それが端的にあらわれるくだりは、

その日、私は部屋に入り掃除をしようとしておどろいた。一人の女が全裸で鏡の前に立って髪をすいていたからである。ドアの音にうしろを振り向いたが、日本兵であることを知るとそのまま何事もなかったようにまた髪をくしけずりはじめた。部屋には二、三の女がいて、寝台に横になりながら『ライフ』か何かを読んでいる。なんの変化もおこらない。私はそのまま部屋を掃除し、床をふいた。裸の女は髪をすき終わると下着をつけ、そのまま寝台に横になってタバコを吸いはじめた。


同じ人間、異性としての扱いはそこにはない。犬が部屋に入って裸体を隠す必要があるのか?日本人とは、犬と同様なのである。家畜同様の捕虜に、羞恥心が芽生えるわけがない。

日本軍が英国軍に行った肉体暴力的な行いと、家畜同様の差別的扱いをする英国軍、どちらが残虐かという問題は民族性なのかもしれない。
相手を人間とみなし、戦勝国としての絶対的優越性をもって肉体的にも精神的にも苦痛を与えることに意味を見出す民族と、人間としての扱いをやめ動物と同じような扱いをもって精神的な苦痛を与える民族。
後者に至っては、意識的に行っていないのであればそれは最も残虐といえる。

会田氏も、「差別意識のない程徹底した差別」に対して烈火のごとく憤慨し、それが本書を書き上げる動機となっている。

残虐さの事例集という側面とは別に、
「戦争」という絶対的な環境が当時の人間にとってどれほど大きなものであったかを考えさせられるくだりもある。

かれは、ときおり私たちに何かと話かけようとした希なイギリス人の1人であった。(中略)
私たちの将校は、「日本が戦争を起こしたのは申し訳ないことであった。これからは仲良くしたい」という意味のことを言った。どのように通じたのだろうか。英軍中尉はきっとした態度をとって答えた。
「君たちは奴隷(スレイブ)か。奴隷だったのか」
(中略)
「われわれはわれわれの祖国の行動を正しいと思って戦った。君たちも自分の国を正しいと思って戦ったのだろう。負けたらすぐ悪かったと本当に思うほどにその信念は頼りなかったのか。それともただ主人の命令だったから悪いと知りつつ戦ったのか。負けたらすぐ勝者の機嫌をとるのか。そういう人は奴隷であってサムライではない。われわれは多くの戦友をこのビルマ戦線で失った。私はかれらが奴隷と戦って死んだと思いたくはない。私たちは日本のサムライと戦って勝ったことを誇りとしているのだ。そういう情けないことは言ってくれるな」


ただの反英国軍という体験や思いだけでは、本書は書き上げられなかったのではないだろうか。このようなハッとするような体験をし、イギリス軍人としての誇りを知ったからこその本書であある。
ただの憎悪だけではあれば、会田氏が京都大学の西欧史の教授の道を歩むことはなかっただろう。


真のヒューマニズムはイギリスには無かったという著者、日本人であれば誰しも何かしらの思いが湧き上がる一冊。

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【書評】ラ・ロシュフコー箴言集-ラ・ロシュフコー

書評

ラ・ロシュフコー箴言集 (岩波文庫)

著者:ラ・ロシュフコー

出版社:岩波書店( 1989-12-18 )

価格:¥ 903

文庫 ( 370 ページ )

ISBN-10 : 4003251016

ISBN-13 : 9784003251010




著者のラ・ロシュフコーは、正式にはラ・ロシュフコー公爵フランソワ6世といい、17世紀フランスの貴族である。

社会風刺というよりは、むしろ辛辣な人間風刺であろう。

箴言集というだけあって、言葉は明快にして鋭利。まるで鋭利な刃物のような切れ味であり、人間の本質であって欲しくないと言わざるをえないほど辛辣である。

1つ1つ書評などできない。いくつかの公爵のお言葉だけで鋭利さは伝わるだろう。

我々は、我々と同意見の人でなければ分別ある人とはまず言わない。

一度も恋の話を聞かなかったなら、恋なんか決してしなかったろうと思われる人間がたくさんいる

凡人は概して 自分の能力を超えることを全て断罪する

恋する男女が一緒にいても全然退屈しないのは、いつも自分たちのことばかりしゃべっているからである



洞察に優れた見方と読むか、穿った見方と読むか、紙一重の本だ。

ただ、この箴言集を超える箴言集は数世紀たっても刊行されていないというのは事実である。例えあまりにも鋭いとはいえ、これが読み継がれているという事実は、社会がこの見方を欲している証ではなかろうか。

自らに向けられた言葉と思った瞬間に、凍り付いてしまうようなクールな一冊。

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【書評】悪魔の辞典-アンブローズ ビアス

書評

新編 悪魔の辞典 (岩波文庫)

著者:アンブローズ ビアス

出版社:岩波書店( 1997-01-16 )

価格:¥ 819

文庫 ( 318 ページ )

ISBN-10 : 4003231228

ISBN-13 : 9784003231227




その名も『The Devil’s Dictionary』、1911年に刊行された辞書である。
ただし、単語は平凡でも、定義内容は痛烈な社会批判、ブラックユーモアに溢れたセンセーショナルな辞書である。


エッジの効いた単語をいくつか。

幸福…他人の不幸を眺めることから生ずる快適な感覚。

歯医者…お前の口に金属を入れ、お前のポケットから硬貨を引き出す男。

平和…二つの戦争の時期の間に介在する、だまし合いの時期。


この悶々と頭によぎりそうな思いを、見事に一文にしてくれている。

社会を批判するということは、いつの世にも必要なことである。批判となる対象は時勢によって異なるだろうが、悪魔の辞典ではそれが普遍なのだ。いつの世にも当てはまる事項とそれへの批判なのだ。

だからこそ、100年たっても色褪せずに改編なく行き続けている。


政治…主義・主張の争いという美味のもとに正体を隠している利害関係の衝突。私益のために国事を運営すること


本日9月16日をもって、民主党による政権が始まった。私益の闘いにならぬよう祈るのみである。

誰もが持つ社会への悶々とした思いを、至極明快な言葉で痛烈に批判してくれる気持ちいい一冊。


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