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【書評】ジョーカー・ゲーム-柳広司

書評

ジョーカー・ゲーム

著者:柳 広司

出版社:角川グループパブリッシング( 2008-08-29 )

価格:¥ 1,575

単行本 ( 252 ページ )

ISBN-10 : 4048738518

ISBN-13 : 9784048738514




柳広司氏の著作は初めてである。歴史上の偉人を取り扱うミステリーをよく書いているそうであるが、本作『ジョーカー・ゲーム』はオリジナルの登場人物による作品。

基本構成は、短編集である。
結城中佐の発案で陸軍内に設立されたスパイ養成学校“D機関”で繰り広げられるスパイ活動を背景としたミステリー小説。
登場人物は魅力的であって、中でも結城中佐は異色である。訓練生には魔王と呼ばれ頭脳明晰、しわひとつない白い手袋と杖をついた風貌からはいかにもである。
彼のモットーは「スパイとは“見えない存在”であること」「殺人や自死は最悪の選択肢」であるという戦時中の軍人魂を真っ向から否定する。とはいえ、あくまでもスパイとしての規律であるから、軍人は軍人魂を持つことに異論はないだろうが。

さて、この結城中佐を中心とするD機関で繰り広げられるスパイ活動が短編の格になる。現場で活動するスパイの人物描写は存在しない、スパイという職業から名前も出身も経歴が全て隠されているからである。それでも、頭脳明晰の帝大出身スパイを際立たせているのが軍人上がりの佐久間の人間味。

戦時中ということで、ストーリーの背景が難しい?と思いきや特に歴史観を持たずとも楽しめる小説である。
スパイという日常生活とはかけ離れた世界とはいえ、007のような映画を想像すればきれいに当てはまる。そんな世界を描いている。

結城中佐の頭脳明晰ぶりは、随所に見られそこは見所のひとつではある。
ただ抑揚のないストーリー展開に飽きてしまいそうになるが、短編でよかったと思う。

2009本屋大賞第3位
このミステリーがスゴイ!第2位
第62回日本推理作家協会賞受賞!

まどわされてはいけない。



年始一冊目にしては、ハードボイルドな一冊。

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【書評】プリズン・トリック-遠藤 武文

書評

プリズン・トリック

著者:遠藤 武文

出版社:講談社( 2009-08-07 )

価格:¥ 1,680

単行本 ( 328 ページ )

ISBN-10 : 4062157063

ISBN-13 : 9784062157063




第55回江戸川乱歩賞受賞作、原題は『39条の過失』である。

交通事故による刑事事件の厳罰化という今日のトピックスを取り上げており、また刑務所での完全密室殺人という限りなく不可能な挑戦にチャレンジしている点は高評価。

ただ減点せざるを得ないのが、作品の構成である。
まず、視点の移動があまりにも多く無駄な登場人物にもスポットが当たりすぎている。誰が主人公で、誰が脇役なのかがわからないまま最後を迎えてしまう。

刑務所内という一般人の知らない世界を描いているということで、描写は丁寧であるがそれでもどうも舞台がイメージしづらい。

それでも江戸川乱歩賞受賞作として君臨したのは、著者のデビュー作にしてここまで大きなテーマに取り組んだという気骨のある著作だからだろう。

原題の39条とは日本国憲法39条を指し、一事不再理についての規定であり、本書の大きなテーマでもある。

交通事故の被害者と加害者、そして加害者の親族が登場するのだが、加害者の遺族が加害者と絶縁する。その理由を知ったときは鳥肌が立つほどの鮮烈である。

全体を通じて、粗さが目立ち何度も立ち往生してしまいそうになるが、ここはひとつ最後まで読み通してもらいたい。
なぜ江戸川乱歩賞の選考委員がこの作品を選んだのか、うっすらと分かる気がする作品である。

「志の高さ」が文字に滲み出るような、男らしい一冊。

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【書評】新参者-東野圭吾

書評

新参者

著者:東野 圭吾

出版社:講談社( 2009-09-18 )

価格:¥ 1,680

単行本 ( 354 ページ )

ISBN-10 : 4062157713

ISBN-13 : 9784062157711




『卒業』『悪意』『赤い指』等に登場する加賀恭一郎警部補の鋭い洞察力が冴え渡る東野圭吾著、加賀シリーズの最新作だ。

本書は、ひとつの事件を複数の関係者の視点で取り上げた短編集だ。

初出は『小説現代』2004年8月号に始まり、2009年7月号まで続いている。丸5年かかっている。中には1年のブランクもある期間もある。それでも物語が読まれ続けていたのは1話の完成度の高さの表れだろう。

日本橋・人形町・浜町といった都内でも下町情緒溢れる街を舞台とした殺人事件。真犯人を探すことが目的であるが、そんなことはどうでもいいと思わせてしまうような人間味溢れる関係者達のエピソード。
嫁姑問題を抱える家族、溝を埋めたい夫婦のとった悪戯、祖母の真相を知る家族ともう一人の他人、新参者の加賀恭一郎がそんな人間模様を炙り出してくれる。まるで殺人事件とは別物語なのだと錯覚してしまう。

だが、それは伏線であった。最後にはやはり殺人事件の謎解きが始まるのが著者らしい。

著者が描きたかったのは、「人情」ではないだろうか。ひとつの殺人事件という殺伐とした事実は、スタンドアローンで起きているわけではない。その被害者、加害者、関係者がいる。その彼らには小さくても人情味溢れる物語があり、それが線となり最後には繋がっている。

各話にはそれぞれ新たな登場人物がおり出来事も違うため、なかなか感情移入する余地はない。しかし各話を読み終えたあと、その登場人物が誰であろうと関係のない新鮮で心地よい感情が芽生えるのはなぜだろう。

加賀も被害者も新参者だった。でも、彼らを暖かく迎えてくれた街。
暗い殺人事件と同時並行の人情物語。

短編集でありながらも、最後は紡がれる。
殺人事件なのにどうも心が温まってしまう一冊。




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【書評】パラドックス13-東野圭吾

書評

パラドックス13

著者:東野 圭吾

出版社:毎日新聞社( 2009-04-15 )

価格:¥ 1,785

ハードカバー ( 480 ページ )

ISBN-10 : 4620107395

ISBN-13 : 9784620107394





海外ドラマ「LOST」を思い出させるような東京を舞台としたパニックサバイバル小説。

13時13分からの13秒間、地球は“P‐13現象”に襲われ、何が起こるかは数学的に予測不可能だという。この想像を絶する中で10数人の登場人物が挫折・絶望を味わいながらも生きる意味を問う。

エンジニア出身の東野氏だけあって、もろ理系の硬い小説かと思いきやどちらかというとパニック&サバイバル&ヒューマンドラマチックな小説。

P-13現象に襲われた東京が舞台で、背景設計は海外ドラマ「LOST」!?と思わせるような「登場人物以外はいない世界」「破壊的世界からの脱出劇」「破滅と脱出の繰り返し」といったキーワードに沿って物語りは進んでいく。

登場人物は、警察官兄弟の兄をリーダーとして、看護婦、やくざ、技師、子育て中の母、女子高生、老夫婦などまるで世界の縮図のような配置。

彼らが織り成すメッセージは、「人間の究極の選択」「善悪の価値基準の崩壊」

このP-13現象の中では誰かの生存は、誰かの犠牲のうえにしかなし得ないという。
このとき、殺人さえもが善として新しい価値基準を作り上げてしまう。

そして彼らは「絶望」と「危機回避」の中で、常に極限の選択を迫られながら生き延びる。

日々、のらりくらりと生活している我々は、手に汗握りながら本書のページをめくることになるだろう。


本書は、数学的に予測不可能なP-13現象という科学的現象が起こるが、あくまで人間の極限や善悪の価値基準を剥き出しにするための方法であって、主題はその後のヒューマンドラマにある。

「数学的」という文句に惹きつけられた読者にとっては肩透かしに思われるかもしれないが、究極の状態で人間がどのような判断を下すのか、そしてそれが合理的なのか、正しいのか、善なのか。夏バテ気味の時期に背筋を伸ばす一冊。

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【書評】流星の絆-東野圭吾



流星の絆


両親を殺された三兄妹が、大人になって復讐をする。しかし、それを阻むのは復讐すべき相手への妹の恋心だったという話。

ストーリー自体は、若干の無理やり感があるにせよ読み応えがある。
展開のテンポや、伏線の張り方などさすがといえる東野圭吾ワールドがそこにある。

しかし、三兄妹だから「絆」で結ばれているという暗黙の了解のような前提があり、なかなか共感できない読者はいるのではないだろうか?親を殺され、養護施設で過ごす日々をより緻密に描写してもらい、「絆」が生まれるプロセスを読者が共感できれば、より面白い。

例えば、『容疑者Xの献身』や『白夜行』に比べると、粗い気がする。
まるで、テレビドラマ化されるのを前提として、テレビか原作を足して100点取れれば御の字のような粗さ。

著者は

「この小説は私が書いたのではない。登場人物たちが作りだしたのだ。」


といっているが、この登場人物の内面的描写が決定的に欠けていると思う。
なぜ登場人物たちは、復讐するに至ったのか。両親を殺され耐えがたい苦痛を味わい3人でしかその憎悪を封じ込められず、果たすべきは復讐あるのみと、そこに至りその感情を抱き続けてきた。その内面の感情をよりページを割いて表現してもらいたかった。

とはいえ、最後まで読ませてしまうのが東野作品。粗さが目立つとはいえ、むしろそこで立ち止まらせないストーリー展開と文章力には脱帽する。



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